本をかたちづくる要素のひとつ、装丁のデザイン。単純にものとしての魅力や、本屋さんでアピールするための顔、などそれぞれの本の装丁には隠された秘密があります。
今回は、「靴のおはなし」のブックデザインとイラストを担当いただいた黒木雅巳さんに、本書の装丁にまつわるあれこれをインタビューしました。
「靴のおはなし」をお持ちの方は、ぜひ本をパラパラしていただきながらご覧くださいね。
【黒木雅巳さん プロフィール】
1988年生まれ、大阪在住。日々眠気と戦いながらイラストや漫画を描いています。
http://monodarake.tumblr.com/
いろんな人のお話を届ける
—「靴のおはなし」の本の装丁について、まずはじめに、こんな風にしようというお考えはあったのですか?
黒木さん
最初に執筆者の候補をお聞きして、けっこう幅広い層に届けたい本だなと感じました。
僕がもともと描いてる絵は、自分ではなんとなく暗い感じだと思っているんですけど、そういうのではなく、もうちょっととっつきやすいものというか、開かれたものにしたいな、手に取りやすい本にしたいな、というところから考えました。
—オムニバスの短編集ということで、著者名をメインにした文字だけの表紙デザインというものも考えられるかと思うのですが、今回イラストを起用された意図はあるのでしょうか。
黒木さん
そうですね~。そもそもイラストありきで考えてたかな。けっこうシンプルなものにはしたかったんですけれど、その中でも、パっと目をひくものがあったほうがいいと思ったので。
「靴」というひとつテーマがあるので、靴をからめたイラストっていうのは、自然にというか、必須条件かなと思って始めましたね。
—今まで、黒木さん自身も参加されている漫画の本「ゆうとぴあグラス」や奥様との共著「K’S CLUBの台北旅行記」を装丁・出版されていますが、今回のような依頼を受けての装丁とでは、何か考え方など違いはあったのでしょうか。
黒木さん
「ゆうとぴあグラス」っていう漫画の同人誌については、僕がみんなから原稿を集めて、入稿の日を決めて、印刷会社にも手配しているんですが、その入稿の一日、二日前くらいに原稿が送られてきて(笑)。
そこから一日半ぐらいで全部レイアウトして、表紙も作って。
—え!! そこから表紙も作られるんですか!?
黒木さん
早く送ってくれる人もいるんですけど、だいたい物を作ったり、書いたりする人って、時間ギリギリまでやっちゃうので…。今までの表紙デザインは、みんなの漫画のシーンを切り抜いて、写真と組み合わせて、というルールを決めていたんです。
でも実際、もう少しいい表紙に仕上げたかったなという号もなくはないので。それで、表紙はもうちょっと余裕を持って取り組みたいと思って、最新号からの表紙の絵は、持ち回り制に変えたんです。レイアウトだけは僕が担当しています。
—それとは逆に「靴のおはなし」のほうは、ご自身で生み出される部分というのが大きかったのでしょうか。
黒木さん
そうですね。同人誌のやり方と比べると、全然違いますね。まずこんな感じにしようと構想して、イラストも何パターンか考えて、色校正もあって、というような。それが通常の本の正しい作り方なんですけれど(笑)。そういう意味では、時間を贅沢に使って制作ができるのは、ありがたかったですね。
—なるほど。それでは、ご苦労というよりも、本来自分がやりたい工程ではあったんですね。
黒木さん
当たり前のことなんですけど(笑)! 本の装丁の仕事をあまりやっていないので、実際に製本されたものを見ると嬉しかったですね。今回こだわって色を合わせた、遊び紙・表紙・表紙カバーが、すごく綺麗に仕上がっているところとか。
表紙のうらばなし
—あと、表紙のことについてもお聞きしたくて。靴を頭にのせている二人のひとの絵が、とても目をひくようで、「シュールだね」っていう声もいただくんです。私も一目みたときから、なんかいい!と惹きつけられたのですが、このイメージってどこから湧いてきたのでしょうか。
黒木さん
僕個人的には、そんなにシュールなものということを意識したわけではなくて。
靴の絵は出したほうがいいなあっていうのは、なんとなくイメージがあったんですけれど、いろんな人の考える「靴」っていう広いテーマ、それこそ、「靴」から、「足」っていうことを書かれている人もいたりするので、あんまり書き手の人が考えないような靴を出せたらいいなあって。
それで単純に靴を履いているというのではない、頭にのせる絵に落としこみました。
▲この絵はトートバッグにも。
—背景のチェック柄へのこだわりはありますか。
黒木さん
自分では使ったことのないモチーフでしたし、毎号続けて共通でちょっとずつ変えていけるものを入れたくて、チェック柄を使いました。
そのチェック柄のカラーの一色を、表紙を開いたページの紙の色ともあわせて、つながりを持たせてます。
黒木さん
紙もね、選びましたしね。
—そうですよね。紙質も好評なんですよ! 個人の書店さんへ本をお届けしたときに「いい手触りの紙ですね~」というお声もいただくんです。中の本文の紙についても、こだわりはおありだったのでしょうか。
黒木さん
手触りもそうなんですが、紙の白さについても考えましたね。本文の紙は、表紙のデザインを白さに合わせて、パリッとした白さのある紙を選んでいます。
あと、お話の内容が様々で、割と説明的な文章もあれば、物語もあったりなので、ニュートラルな感じにしたかったんですね。それで、黄味がかかっている白でなく、白さのあるものにしたんです。
挿絵ってなかなかないですね
—続いて、挿絵のことも聞かせてください。1と2を通じて、それぞれのお話にひとつずつ挿絵を描いていただいているので、11個の絵がそろっているんですけど、切り取られているシーンはどのように決めていかれたのでしょうか。
まずは、文章を読まれるんですよね?
黒木さん
読みますね。僕は、読むのがめちゃくちゃ遅いので、そこが一番苦労しました。読んで、絵にできるシーンを選んでいるんですけど。できるだけ靴が出てくるようにはしていたと思います。
—文章を読むときは、挿絵のことを考えながら読まれるのですか?
黒木さん
一回は何も考えずに全部読んで、もう一回くらい読んで。そこで、なんとなく絵になりそうな部分と、あとは、好きなところ、ここはいいな、っていうところを選んでいます。例えば、この「前ゴム」っていいな、っていうように。
—実際の文章そのままの描写だけではなく、何かしら黒木さんの想像の部分も入っていますよね。印象的なものを組み合わせたりだとか。
黒木さん
そうですね。文章通りの絵ではないこともありますね。
あとはやっぱり、できるだけ文章の邪魔をしないような絵を心がけています。具体的な描写を避けるとか。
2でいうと、いしいしんじさんのお話の絵は、人を後ろ姿やシルエットにしたんですけれど。このお話については、小物で表現してもよかったんですが、元気のいい、勢いのあるお話なので、そこを出したいなあと思って。勢いで描きましたね。
あと、描く絵は、話の雰囲気にできるだけ寄り添いたいなと思っていて。石川直樹さんのお話は、靴を丁寧に説明されていたので、ひとつひとつ丁寧に靴を描こうかなとか。
—なるほど~。それぞれのお話の雰囲気に寄り添って、ですね。
黒木さん
ただ、全てを通して、テイストがそんなに変わらないように意識してはいます。絵のタッチが変わりすぎないように、1の時に使った画材を記録しておいて、2もそれを使って描きました。
—お話をうかがっていて、つくづく、挿絵って難しいだろうなと思いました。しかもアンソロジーですし、テイストもある程度統一して、というと…。
黒木さん
今や挿絵ってあんまり見ないですよね。国語の教科書とか、ですかね。
—たしかに、そうかもしれないですね。
黒木さん
物語で挿絵が入っているのって、児童書とかかなあ。
昔、ロアルド・ダールの「チョコレート工場の秘密」を読んでいたときに、最初、不幸のどん底みたいになっていた話のところに、ぐちゃぐちゃぐちゃっとした挿絵が入っていたのが、めっちゃ好きで、夢中で読んでいたのを覚えています。次の挿絵がでてくるところまで読みたい!みたいな。物語を読んでいて、たまに挿絵が出てくると、頭の中のイメージをちょっとずつアシストしてくれるような感じだったと思うんですよ、その当時は。今、なんとなく思い出しました。
—「靴のおはなし」の場合は、それぞれのお話が終わったあとに挿絵があることで、一息ついたり、お話を思い返したりする役割もあるなあと思っています。
黒木さん
それはあると思いますね。
—最後に、この本の装丁で、ここを見てほしいな、というところがありましたら!
黒木さん
装丁する上で、絵については自分の持ち味みたいなものを出したいと思ったんですけれど、デザインとしては、あまり我を出さないというか、なるべくす~っと入ってくるようなものを意識して制作したんですよ。ちょっとずつ工夫している部分はあったんですけれど、あまりデザインの面でひっかかりのあるものにはしたくなかったんで。
なので、逆にデザインの部分を意識せず読んでいただけたらなあ、と思いますね。
“おまけ”
黒木さん
次はどうしましょうかね~。
—次の号は、また少し違った構成を考えています。なので、装丁も少し変化する部分があるかもしれませんね。
まだ構想段階なんですけれど、黒木さんページとして、靴の漫画をお願いできたら、とかも思っています。
黒木さん
それは楽しみですね。
—私も楽しみです…! またご相談させてください!
「靴のおはなし」、ぜひ、お手にとってみてくださいね。