靴にまつわる短歌と小さなエッセイをご紹介する、「靴のうた」。
あの日のことをおぼえていますか。どうぞ、ご覧ください。
履き慣れぬ革靴の音響かせて歩く四時間ゲーム盤のごと
黒岩剛仁『野球小僧』
出張のために新しい靴を用意したのでしょうか。「履き慣れぬ革靴」は、新しく、輝いているようです。
でも、歌集をじっくり読むと、この歌は地震の直後の様子を詠んだものらしいのです。誰もがあこがれる大企業でキャリアを積んできた歌人は、会社の巨大なビルが揺れる姿を詠み、そのあとにこの歌を置いています。
急いで社に戻り、同僚たちが無事か、建物に破損がないか、あちこちを見て回ったのでしょう。
不安なときも、人は靴とともに過ごします。履き慣れぬ靴は、大変な思いをした四時間で、頼もしい相棒になっていったことでしょう。
みなさん、夜、寝るときには、必ず近くに履き慣れた靴を置いておいてください。古い靴でかまいません。地震や火事など、急いで避難すべきときに、すぐに靴が履けるように。
靴さえあれば、たいていの災害から逃げることができるのですから。
選歌・エッセイ 千葉 聡
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